小林:
「ダイバーシティ(多様性)」に関して、10年以上前から様々な場所で講演や、執筆、企業コンサルとしてアドバイザー業務をされていらっしゃる先生にズバリお伺いしたいのですが、最近聞く機会が増えた企業にとっての「ダイバーシティ」とは何なんでしょうか??
中川さん:
一言で端的に言うなら、様々なスキルや経験や志向性(性格)を持った人材の特性を活かして、新しい発想を生み出したり、環境変化に対して適応しようとしていくことだと思います。ダイバーシティの反対である“金太郎飴”の組織はコンセンサスは取りやすいですが、アイデアが画一的で柔軟な発想が生まれにくいという弱点があります。
近年は事業環境の変化が激しいので、企業も次々に新しいことにチャレンジしていかざるを得ない。そこで、ダイバーシティが真剣に求められるようになってきたのです。
小林:
今まで通りやっていて今後も通用していくのであれば、必要なかったかもしれないけれど、このままでは多くの企業が立ち行かなくなってしまうという現実の中で、多くの企業にとって共通して必要となってきた考え方ということで出てきた言葉ということでしょうか?
中川さん:
そうですね、昔から積極的に取り組んでいる企業もありましたが、ここ最近特に注目されているのは「必要に迫られる状況になったから」という理由が大きいと思います。
小林:
なるほど、しかし一方で、非常に重要なテーマであるにもかかわらず、なんとなく、ダイバーシティや多様な価値観や働き方を受け入れていくことがスムーズに進んでいないケースも多いようなイメージもあるのですが、それはどのような理由からなんでしょうか??なんとなく地方や田舎の方が遅れている気がします(^_^;)そんな事はないですか??
中川さん:
他にもあると思いますが、例えば以下の様な理由がよく考えられます。
本当のダイバーシティに覚悟を持って取り組めない要因:
・周囲に成功事例がまだ少ない
・現在の社員で何とかやれていて、ダイバーシティを積極的に取り入れていく必要性を感じない
・組織の中での保身や変化を嫌う人たちによる抵抗
・会社が混乱することへの懸念
とは言え、企業のトップは市場が変化していくことは十分お分かりでしょうから、ダイバーシティを推し進めていくことも含めて、組織を変える、変化を起こすことの重要性は分かっていらっしゃるかと思います。しかし同時に、変化を起こすことのリスク=マイナス影響も分かっておられそのマイナス影響を最小限にとどめて進めていきたいとも考えています。その結果、どうやって進めていくのが一番良いのかわからなくなってしまっている、といった状態に陥っていることも少なくないのではと思っています。
実際に、人事的な側面から強力に推進していくトップもいれば、年長者や反対者への根回しに時間をかけたあとに、慎重に慎重を重ねて進めていくトップもおられます。業界や会社によって組織風土は全く異なるため、ダイバーシティを進める必要性もスピードも進め方も異なるのが現実です。
ダイバーシティや女性活躍のモデル事例でよく知られている資生堂でも、約30年前からのトライ&エラーがあった上で、組織が徐々に変化しています。私自身、様々な企業のトップのお話を伺っても、組織を変えていくということは決して一朝一夕では難しく、「とても時間がかかること」だと痛感しています。
ですが、どの会社にとっても将来的な投資の意味でも、今後ダイバーシティを進めていく必要性は十分にあると思っています。
小林:
なるほど、やはり簡単ではないということは改めてわかりました。
それでは、具体的に今回のテーマの【多様性の「幅」と「高さ」】について、伺っていきたいと思いますが、いかがでしょうか?
中川さん:
繰り返しになりますが、今まで社内にいなかったタイプや別業界を経験している人材など、資質や志向の違う人を積極的に自組織に取り込んで、その人たちのアイデアや意見を活かすことで、変化に対応して競争に勝っていこうという企業の取り組みが、まさに今よく言われている「ダイバーシティ」の推進です。
そしてそのダイバーシティを進めていく際には、【多様性の「幅」と「高さ」】の両方を意識することが重要です。
どれくらい異なった経験や志向を持った人がいるのかが「幅」。あるスキルや経験に関して、どれくらい高いレベルで保有している人がいるのかが「高さ」です。
小林:
なるほど、イメージしやすいです。
よく聞く”多様性”という言葉のイメージは私の中では、この多様性の「幅」についてのような感じだったのですが?
中川さん:
確かに多様性というと、とかく多くの会社はまず「幅」、タイプの違った人材のバリエーションをそろえることに意識が向かいがちです。実際に、違ったタイプの人材さえたくさんそろえられたら、「わが社は多様性が担保できた、終了」と、あとは自動的に組織に何か良い変化が起こるだろうと期待して終わってしまっているケースも少なくありません。
資質や志向、経験が違えば、誰でも組織に取り込めば良いわけではありません。厳しい競争に勝ち残っていかなければならない企業が目指すのは、この人の力で業績が上がったとか、この人によってチームの活性化がもたらされたとか、この人がいたからイノベーションが起こせたとか、これまでその企業にはなかった新しい価値を生み出してくれる人材を獲得することが重要です。例えば、全く別の業界の人材を採用するのであれば、その業界で一定基準以上活躍していた方を採用するなど、やはり能力や意識の高さも加味しなければ上手くいかないでしょう。
ダイバーシティを進めていく上では、様々なタイプの資質や志向、経験を持ち、かつそれが高いレベルである人材のバリエーションをどう集められるか、つまり、【幅と高さ】の両方を意識することが鍵だといえると思います。
更に、こうした「幅と高さのそろった多様な人材」を集められた先に、企業が留意しておかなければならない点があります。
それは、組織の中に「キャリアや働き方」の多様性を作っておくことです。
いくら素晴らしい人材が集まってくれても、一人ひとりが入社後モチベーション高く活躍しやすい状態が出来なければ、結果、生産性は落ち、イノベーションには繋がりにくいですし、逆に定着せずに退職してしまいかねません。
資質も志向も経験も違う多様な人材が定着し活躍し続けてもらうためには、会社が制度やポジションとして、多様なキャリアや働き方を用意しておくことが不可欠です。様々なキャリアの登り方があることで、多様な人材が多様に活躍しやすい状態を生み出すことが出来るでしょう。
具体的には、例えば女性の管理職比率を指標として、女性の活躍度合いが論評されたりしていますが、「管理職になるだけ=活躍」とはいえないのではないでしょうか?各業務の専門職としての経験を積み「その人に任せれば安心だ」と社内外から評価されている状態が大変活躍している状態だと思います。
つまり、部下を持ち管理職になるレール以外にも、多様な活躍度合いを評価する指標を持ち、給与面も含めて、それぞれの個人に合ったキャリアステップをそれぞれが描いて目指していくことが出来る、多様なキャリアパスやそれを支える人事評価制度を構築しておくことが重要だということです。
「幅と高さの多様性」を担保した会社は、外から見ても大変魅力的で採用力の向上にもつながるはずです。良い人材が集まりやすく、かつ入った人材が辞めずに活躍しやすい状態に近づけることができ、組織力も高まり、好循環が生まれていくことは間違いないことでしょう。
小林:
そうなんですね、確かにそういったことを大事にしている企業は、多様なスキルを持った人材が集まりやすそうな気がします。「多様性の幅と高さ」について整えていくことで、確かにイノベーションが起こりやすい状態には近づいていく気がするのですが、それでも成功する組織となかなか変化しない組織とあるような気がするのですが、あとはどのようなことが必要になるのでしょうか?
中川さん:
おっしゃる通りで、組織の中に「多様性の幅と高さ」を担保することは、あくまでもイノベーションが起きやすい状態を企業として構築している状態に過ぎません。そこから実際にイノベーションを起こし、成功に導いて組織に大きな価値を生み出していくための鍵は、やはりそのプロジェクトのリーダーや組織のトップ、最終的には社長の本気度にかかってくると思います。
結局、イノベーションを起こしていくために必要な良い人材を集められたとしても、トップや組織のリーダーが変化することや失敗することのリスクを恐れて腰が引けていたら、イノベーションはなかなか起きません。
まずはトップやリーダー自ら先頭に立ってチャレンジしていく姿勢を見せ続けること。そしてまた、チャレンジした/しようとする人を分かりやすく人事で評価していくことを積み重ねていくことで、組織の中の誰もが日々チャレンジすることを当たり前とする風土が醸成され、組織に定着していくのではないかと思います。
小林:
なるほど、ありがとうございました。やはり、企業の競争力は「人材」にかかっている。そして、そういった人材を集めて・活躍してもらい、イノベーションにつなげていくための組織に変えていくことが重要なんですね。難しいことですが取り組んでいかねばならないことだということがよくわかりました。また、更に踏み込んだ話など、また聞かせて下さい!
今日はありがとうございました。
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